湯浴みだ、湯浴みだ。
12日間の仕事を終えて、家族と一泊旅行に来ています。岐阜県の長良川温泉・十八楼。ここには、「蔵の湯」という湯があります。有馬温泉の金泉に似た湯成分の褐色で、湯浴みに最適です。湯上がりもよく、なんと言っても蔵の湯の浴室が魅力です。
解体されて眠っていた明治時代の蔵を修復、再利用して建てられた浴室。高い天井と大きな棟木と垂木の大きさが圧巻です。湯に浸かりながら見上げる天井は開放感に満ちていて、「ここに来てよかった」という気持ちを確認できます。
長良川温泉は金華山のふもと、長良川沿いにある温泉街です。夏は1300年の歴史を誇る鵜飼が名物。板垣退助が刺されて傷を負った岐阜公園や、斎藤道三と織田信長が居城した岐阜城がある観光地です。中でも金華山の展望台から見渡す濃尾平野は見事で美しいです。
蔵の湯に浸かりながら、この年末年始を振り返っていました。そして、第6波の感染拡大期のこれからを思いました。沖縄、山口、広島には今日(1月9日)から「まん防」が適応されました。感染者数も8249人を叩き出し、2日連続で8000人台を数えました。
忙しくさせて頂いた年末年始。その成果とは真逆の、例年、閑散となる正月明け第二週目。日々聞こえる感染拡大と1月12日の荒天予報。京都もまん防の発出が時間の問題と思われる状況。度重なる材料費の値上げもボディーブローが効いてくる頃です。
高い天井を見上げながら、これからの事を考えました。2月にはおはるが引退します。きちんと引退をさせて挙げられるだろうか。新年度が始まる頃には、今の第6波は収束するだろうか。この年末年始の忙しさを懐かしむのは嫌だな。新しいチャームをどう作ろうか。旅先でも考えることはお店のことばかりです。
「吾死すとも、自由な死なず」と刺された板垣氏は言ったそうです。幕末に土佐志士として活動し、薩摩の西郷氏に近い思想を持ち、征韓論が否定されると下野して自由民権運動を起こした人物。「国会を作ろう」という運動。この長良川温泉の地で刺された板垣氏を思いながら、「次(の時代に)に何を残せるだろうか」と考える自分。
飲食店のこれからと在り方、そして、紙屋川の使い方。しかし、温泉はいいなぁ。わたくしは湯浴みが大好きです。働くだけ働いてたどり着く温泉ほど「ねぎらい」に相応しいものはありません。働きたいなぁ。とことん働きたい。そしてまた温泉に来たいなぁ。難しいことから今の快適までごちゃごちゃになる湯浴み。見上げる高い天井はなんでもない顔をします。
長く湯に浸かり「ま、いいか」と上がる。考えてみても何も出てきませんでした。そうなのです。何も出てこない。ああ、なるほど。休息しているのだなと思います。いろいろな情報を処理します。これからの不安や対策も考えます。自分にできることは何かを見極めようと努めます。少しでも先に、先に回って動いておこうと考えます。しかし、長湯をしてると「ま、いいか」となります。
「年末年始が忙しかった」。とりあえず、それでいいじゃないか。感染拡大はわたくしが心配しても、アベンジャーズみたいに活躍して止められる訳でもありません。おはるの引退も、この時期に難しければまた時期を改めてきちんと明るくできる機会を探してもいい(あ、これは本人にも要相談)。紙屋川があの場所にあれば、ま、いいか。
わたくしは板垣氏のような大きなことを考えたりできません。ですが、彼も言ったように、自分の思想は自分が死んでも「若干残るといいな」とは思います(注:板垣氏は「若干」などと思っていません)。過去の偉人から学ぶことはその偉大さよりも、生き様と思想に因るものが多いと思います。その意味で、今回ここに来たことはよかったです。
わたくしも紙屋川を通して、レストランや飲食店の在り方を示せるといいなと考えています。日常にレストランがある意味と価値を、明かりを灯して佇む姿を。まん防が出されたら「休んでやる!」とスネていましたが、あの場所は世間が暗い時こそ点灯してなくてはならないと思うのですね。ああ、また戦うことになるのか。
暇になります。うんざりですが、仕方ありません。気持ちは腐ります。許してください。今から知らせておきますね。感染拡大があると店内飲食もままならなくなるかも知れません。またテイクアウト?考えるだけで気が重いです。でも板垣氏は言ったんです「吾死すとも、自由は死なず」と。「マーケット死すとも、イルピアットは死なず」と詭弁ですが、言ってもいいですか。
感染拡大しても料理は作れなくなりません。この2年で学びました。やはりここに帰って来るのです。この原点に。わたくしが「調理する」意思さえ無くさなければ、料理は作れるのです。そしてあの場所さえあれば、皆さんをお待ちすることができます。わたくしは年末年始に見た、あの賑やかなイルピアットが好きです。
このお店を支えてくれたスタッフのおはる。結婚して亀岡へ移住します。見事です。きちんと成長し、引退します。いまの紙屋川の賑やかさの立役者でもあった彼女の引退を、どうか皆さんのお力添えを頂き果たしたいです。彼女の未来に紙屋川が点灯し続けるためにも。わたくしはレストランが叶えられる全てを知りたいです。
年末年始を思い切り働き抜いて、成人の日連休を利用して家族と迎える「新年」。これを恒例にできれば、なんという幸せでしょうか。今日、最後の湯浴みへ行ってきます。24時に閉まってしまいます。23:31。感染拡大や他のさまざまにも屈せず、レストランをしてゆきたいと思います。一緒に進みましょう。さて、湯浴みだ、湯浴みだ。