イルピアット開店18周年を迎えて
イルピアット開店18周年を迎えて
2022年6月5日日曜日22:04です。いま、わたくしは、山梨県は富士山のふもと河口湖にある温泉宿にいます。妻のあいこさんが私への労いに今日の宿泊を用意してくれました。初めて山梨県に来ました。富士山はあいにく雲に隠れて全貌を認めることができませんでした。先週の長野県松本市に続き、二週に渡り長距離移動を敢行しました。
この6月7日にイルピアットは開業18周年を迎えます。いやぁ、本当に、驚きです。こんなにもお店を続けられる人生になるなんて考えていませんでした。毎年同じことを言います。はい。毎日は定めた作業の繰り返しで、毎週、毎月は売り上げの成果を振り返り、毎年はこの1年への感謝にまとまります。
わたくしには特別な能力も技能もセンスもありません。特筆すべき人気店でもありませんし、何年先までもご予約が埋まるとか、そういう現象もありません。雑誌にも掲載されませんし、ちやほやもされません。気難しそうに映るわたくしと、面倒くさそうな料理構成が、お客さまのご利用を制限しているようにさえ思われています。
2019年4月から始まったコロナ禍の制限なども手伝い、飲食店は様々な姿を現しました。「感染予防対策」というマインドにより、飲食店の理性を図るような世間の眼差しはとても厳しいものがありました。三年間続いた制限にもやっと出口が見え始めました。イルピアットは何とかこの混乱をやり過ごせました。わたくしの気難しさはこの三年間に磨きがかかったと思います。
コロナ禍の終息を感じ始めたころ、ウクライナに対してロシアが侵略戦争を起こしました。世界的な穀倉地帯である両地域は、戦禍によりぐちゃぐちゃになっています。現在も出口が見えないまま、100日間を数えた戦争は続いてしまっています。この戦禍により多くの難民が生まれてしまい、世界のバランスは一層難しくなっています。
長引いたコロナ禍の影響で原油価格は高騰していましたが、この戦争がさらに拍車をかけています。ありとあらゆるものが値上がりしています。レストランにとっても大打撃です。輸入品のお肉は値上がり続けています。引きつられて、国内のお肉なども値上がりしています。コロナ禍の制限は解かれましたが、20時以降のご利用はほとんど消滅したままです。
原材料費の高騰と、ご利用機会の消滅は多くのレストランに暗い影を落としています。普通に営業をしてきたレストランにとっては、経験した事のない事態となっています。制限が明けても客足が戻らないこと、原材料費の高騰、それに伴う売り上げの減少。特別に人気のある飲食店を除き、どこも事情は同じだと思います。
はぁー。こんな風に温泉に来ていていいのだろうか、とも思います。8月に休暇を取っても良いのだろうか、とも思います。何をするにしても「これで良いのだろうか」という問いが立ちます。その問いのたびに、やはり、疲れてしまいます。わたくしだけではないと思います。日々に対して問いを立てては、考えたりします。
しかし、わたくしが悩んでも良くなることは一つもありません。わたくしはお店を失くした訳ではありません。イルピアット紙屋川はきちんとあります。お店がある限り、料理が作れます。どうか、食べに来てください。売り上げに一喜一憂しますが、何とかきちんと営業しています。アルバイトスタッフも頑張ってくれています。
レストランは街のそこかしこにあります。変わってしまった日常であっても、レストランは街のそこかしこで料理を作っています。イルピアットだけではありません。あの店も、この店も、原材料費の高騰と闘いながらも皆さんをお迎えする準備を日々、しています。そうなのです。街のそこかしこに、皆さんを待っているレストランがあります。
扉を開けてください。いい香りがします。「いらっしゃいませ」という言葉があります。街のそこかしこで料理人たちが腕を振るって調理しています。どうか、レストランをご利用ください。街のそこかしこに賑やかさが戻れば、変わってしまった日常を更新できます。元通りにならなくても構いません。街のそこかしこには、あなたのご来店を待っているお店がある事だけを思ってください。
わたくしたちは皆さんのご利用によってのみ成り立つ存在です。街のそこかしこにレストランがあるゆとりを失くしてはなりません。わたくしたちの存在は、街のゆとりです。同時に、社会のゆとりです。レストランは社会的なインフラです。ゆとりを失えば、緊張しか残りません。コロナ禍の制限がそうであったように、緊張しかない社会では厳しさしか語られません。レストランは街のそこかしこにあるからこそ、いい香りがするし、明るくなるし、賑わいを作るし、とにかく、良いんです。レストランは素敵なのです。
わたくしも努力をします。原材料費の高騰を何とか切り抜ける方法を考えます。皆さんの負担を減らし、わたくしの貯えが増える方法を考えます。美味しいと言っていただける料理を生み出せるよう、勉強も怠りません。変化を恐れずに、新しさと落ち着きが共存するような演出を考えます。街のそこかしこにあるレストランたちは、まだまだ良くなります。本当です。それを確かめるためにも、ぜひ、レストランをご利用ください。
おかげさまでイルピアットは18周年を迎えることができます。この先にも料理を作らせてください。街のそこかしこにレストランがあります。わたくしもその内のひとつでいさせて下さい。幾つもの課題や目標を掲げて頑張ります。どうぞ、そんなわたくしを楽しんでください。わたくしはレストランでできる事の全部をしたいと思います。イルピアット紙屋川はまだまだ色々とできます。
皆さんのご来店を営業日にお待ちしています。
イルピアット紙屋川にようこそ!
本当に、感謝しかありません。いつもご利用くださりありがとうございます。
水谷トニーよしお