皆さまに重要なお知らせがあります。
いつもイルピアットをご利用いただき、本当にありがとうございます。ご利用くださる皆さまと、イルピアットに材料を納品くださる各業者様、仕入れに伺う店舗様に重要なご報告があります。
イルピアットは、 2013年 8月31日 土曜日 を持ちまして夜の営業を終了いたします。
9月からは新たにランチのみの営業形態に変わります。
2004年から来月6月で丸9年間の営業を続けてきました。途中、定休日の変更、ランチ営業の終了、夜の営業は二交代制になるなど、これまでもお客様には ご不便とご迷惑をおかけしてまいりました。今回もお客様には、ご利用に際してご迷惑とご不便、さらにはご希望に沿わない選択となるかと思います。この場を お借りしまして、お詫び申し上げます。
これまでの営業を通して、イルピアットはある意味で完成したと思っています。毎月のメニュー替え、お客様のご利用単価の上昇、ご予約の二交代制へのご理解 など、イルピアットの特性を活かした営業活動はある到達点に至りました。本来であれば、この到達点を維持すべく継続期に入るところです。もしかしたら、ど れくらい前からかもうそうした時期になっていたとも思います。
他の飲食店さまも、どんな事業態であろうとも、軌道に乗せることを目標にし活動をします。そして軌道に乗せた後は、それを更に高める活動を目指します。二 店舗目の展開や、店舗拡大などはまさしくそうした現れであり、一般的にはそうした流れを踏襲します。イルピアットもよく「お店を大きくしないのか?」など のご質問を受けます。昨年に設立した食画株式会社は、ある意味でそうした次の展開に似たものかもしれません。
これまで丸9年かけて今のイルピアットを作り上げてきました。私はどこかで、軌道に乗ったイルピアットの居心地良さが自分には毒性が強いと思っています。 言い換えれば、怪しいなと感じています。牧歌的で、安穏としていて、保守的で、落ち着く活動で、平和的で、継続的な安心感。それらももちろん、努力の上に なるものです。毎月のメニュー替えはストレスですし、色々なお客様も見えるし、競合店舗は増えるばかりだし、うかうかしてはいられません。それでもそんな 中にあっても、私にとってイルピアットはある到達点に至ったのであり、これからのイルピアットは退屈なものになるのだろうなとも思うのです。
そんな気分のある5月に、フッと「夜の営業をやめて、お昼だけにしたらどうなるかな」と考えました。もちろん、売り上げや生活の事を考えるとランチのみ営 業などという選択肢はあり得ません。自分勝手である、という気持ちが無いわけではありません。それでもとりあえず、大胆なプランのイメージは何かを生み出 すのではないかと熱くなりました。
夜には家に帰る暮らしを、イメージして見ました。
そのイメージが、大変ウキウキするような色彩でした。
早朝おきて、お弁当と朝ごはんを用意する。嫁さんは仕事に出掛け、私はかの子を保育園へ送る。ランチの支度にお店へ行き、営業をする。翌日の仕込みと仕入 れをして、帰宅する。かの子は嫁さんが迎えに行ったり、私が行ったり。それでも、晩ごはんは家族で食卓を囲む。晩ごはんを作りながら、翌日の朝ごはんとお 弁当の仕込みもこなす。お風呂を沸かして、家族順番に利用する。かの子を寝かしつけたら、読書と勉強。そして朝になる・・・・。
なんというか、欲しい風景でした。
娘の育児と教育、そして自分の勉強への欲求。言い換えれば、娘の育児から多くを学びたいと思う気持ち。この源泉は妻の負担を軽くする為とか、社会的にこう あるべきとか、模範になりたいとか、そういうことではありません。そういうキレイで整った理由ではありません。私は、私の為にだけする活動が周囲にとって もハッピーであって欲しいと欲張りに願うだけです。周囲をハッピーにしたいという目的は全くありません。
私にとってハッピーは目的ではなく、結果です。ハッピーは結果論でしかないのです。これまでも実を言うと、そうしたスタイルでした。イルピアットは結果的 に上手く運営できてきました。一重にご利用くださる皆様に恵まれた結果です。同時に、私は嘘を付かずに活動してきた結果であるとも思っています。頭に「バ カ」が付くくらい正直に調理をしてきた結果だと思うのです。多くの人は正直者が大好きです。このことは遺伝子的にも間違いなく、そうなのです。私はご利用 くださる方をハッピーにしたいとか、全く思いませんし、考えた事もありません。
私がハッピーなら、接する人は自由にハッピーになると思い込んでいます。
少し難しい話をしますが、社会はどんどん難しい方向へ流れて行きます。これは日本だけではなく、地球規模でそうなのだと思います。私は「この流れを止めな くてはならない」などとも、思いません。良くも、悪くも、社会と文明は発展と進行をすれば複雑に成らざるを得ません。原始的でスピリチュアルで宇宙的な感 覚を欲してしまう反動を生み出すほど、複雑化するものです。呪術的な信仰と、神格化された伝統とを人間の根源であるかのように言わなければやってられない ほどに、複雑になります。
この複雑化を、私は人間らしいと思っています。
経済的な格差は先進国で顕著になって行きます。資本主義社会の弊害のように語られ続けて久しいこの現象も、いよいよ具現化されて多くの軋轢を生み出す機運 となると思います。日本も、私たちを取り巻く環境も例外ではありません。言い換えれば、例外ではいられません。人々の不安と不満は日々刻々、年々と増大し て行きます。政治はそのガス抜きの為に多くのデモンストレーションを用意します。国民栄誉賞授与式に見る歪さや、伝統を重んじる教育や、アイデンティティ に働きかけようとするナショナリズムなどは顕著ですし、私は個人的には面倒くさいなと見ています。
だからこそ。
これまでのやり方なんて、あてにならない。
踏襲するやり方では、私は満足できない。
人間は何の為にために生まれて、なぜ社会を形成するのか?
そんなことは、どうでもいいのです。
私は、私が求める何かをきちんと説明したいだけなのです。
せっかく、言葉を獲得したのですから表現したいのです。イタリア料理を通して、接客を通して、育児を通して、社会学を通して、私は何かをまとめたい欲求で はち切れそうなのです。その欲求は、今の形態ではまとめられないという結論に至りました。娘の成長と同時進行で、私も学びを再開したいと思います。
イルピアットは8月31日を持って、夜の営業を終了いたします。
ある業者さんに尋ねました。
「もし、イルピアットがランチ営業だけになったらどう?」
その方は言いました。
「水谷さんらしいです。」
私はその言葉に感動しました。本当に?マジで?いいのかな?
その業者さんは続けました。
「それは芸術ですよ。」
彼曰く、完成されたものを壊すのは芸術なのだと。
「水谷さんは丸9年掛けてお店をここまでにされました。凄い事だし、なかなかできません。そして今、それを失くす考えでいる。美しいじゃないですか。それこそ芸術ですよ。」
私は気づかないうちに、自分を理解してくれる存在が近くにいるのだと思いました。私は先立って、親しいい方に自分の考えをお知らせしました。全ての方が言いました。
「水谷君らしい。」
私は、私のわがままで夜の営業を終了させていただきます。やり尽くしたと言うよりは、他にやりたいことが強くなったことが理由です。全てのご利用者様にご理解をいただけない事もよく分かっています。
それでも。
今回の選択はこの先の20年を支えるものだと証明したいと思います。
私にはたくさんやりたいことがあります。アイデアが溢れています。もう、いまのカタチだけで抑えられなくなりました。家庭の為にと言えば、分かりやすいの でしょうけれども私は違います。私は勉強をしたい。文章を書きたい。社会学もイタリア料理ももっと勉強したい。色々な表現を通して発信して行きたい。
ランチの営業内容は決定次第、追ってお知らせして行きます。ひとつ言えることは、アラカルトはありません。ランチは固定化します。限られた仕込でもスペシャルな内容をご用意します。そして、この先にご用意する様々なプランもこれからきちんと発表して行きます。
新しいプランは殆ど、青写真ができています。イルピアットはなくなりません。9月からランチのみの営業になります。営業時間なども決定しましたらお知らせして行きます。
重ねて、ご利用者さまや各業者様には多大なご迷惑とご不便をおかけいたします。この場をお借りしてお詫びいたします。申し訳ございません。
これからのイルピアットもどうぞ、よろしくお願いいたします。
最後に、これまで夜のイルピアットを愛してくださった皆さま。本当にごめんなさい。皆さんがどれほどイルピアットの夜の価値を創造し、高めてきてくださったかを私は理解しているつもりです。そしてそれは、本当に身に余る光栄だと思っています。
「寂しくなるね」
「残念だね」
というお言葉に、私は勝手に報われた気持ちを重ねてしまいました。申し訳なく思う気持ち以上に、これまで作り上げてきた事の大きさに気付かされた瞬間でした。本当にすみません。そして繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。心から感謝をしています。
残り、4ヶ月弱の営業です。
最後まで全力で表現して行きます。引き続き、私に厳しい眼差しを向けてください。
私は最後まで、受けて立ちます。
よろしくお願いします。
イルピアット店員 水谷 啓郎