ひとつ、愚痴を話してもよろしいですか?

2024年4月8日ブログなど

ひとつ、愚痴を言ってもいいでしょうか。はい、すみません。それでは失礼して・・・。ドリンクのオーダーがない。予約をして来店くださったが、パスタのみの注文。紙屋川ではディナーでのご利用単価が「ひとり3000円〜」になる目標を目指しています。この数字はご利用いただく条件にはなっていません。もちろん、表示もされていません。ですから、この数字はあくまでも「お店側の目標と期待」でしかありません。

「お店の目標なんて知ったこっちゃない」「好きに注文させてくれよ」「窮屈なことを言われると面倒臭い」などの声が聞こえて来そうです。いや、実際に聴こえています。私のお店「イルピアット紙屋川」では良いお客さまたちに恵まれて運営ができていますから、そうした声はほとんど無いのですが、被害妄想的に聴こえてきます。被害妄想癖を除けば、お客さまに恵まれていることは本当に感謝しかなく、毎日の励みになっています。私を支えてくださり本当にありがとうございます。

殆どのお客さまが私の「期待と目標=意図」を汲み取ってくださっています。私もご利用くださる皆さんからの期待を感じながら調理をしています。月毎に変わるメニューや毎日仕込む作業、ただきちんと作業するということ、している作業の説明が全てできること。「イルピアットってなに?」と尋ねられれば、「きちんとしているレストランを目指すレストランです」と答えるでしょう。とにかくきちんとを目指し、日日の活動をしています。

ご利用くださる皆さんからの期待と、お店からの期待。これがマッチングするといいヴァイブスを個々に生み出します。それが重なりお店のグルーヴになります。どちらも「ノリ」ですが、賑やかで、楽しげで、明るい空間と時間は、皆さんとお店で作り上げます。その共感性というか、協調性というか、「ノリ」はやはり、同じ方向を向いていて「受け容れ合えている瞬間」に生じる快感です。いいグルーヴが生まれている時、ご利用されているみなさんも楽しげです。調理する私も、サービスするスタッフも、テンションが上がります。

しかし、お店がご利用になる方のご期待に添えない場合、口コミや評価サイトなどで好き勝手に指摘されたり、辛辣に罵られたり、八つ当たり気味に因縁をふっかけられたりします。これは仕方のないことです。社会にはそうした感情がよくあって、その受け皿を飲食店が担っていることも知っています。ですが、お店からはご利用中のお客さまに「もっと注文してください」とは話せません。立場はまったく、お店が弱いのです。

しかしそんな事は、美味しい料理ときちんとした作業を繰り返すことで何でもないことにできると考えています。「きちんと」は「きちんと」の眼差しと相性がいいのです。お店の意図を汲み取ってご利用くださっている方の眼差しによって、私は立っていられます。同時に、だからこそ、お店の意図に関心を持たれない方へどう優しく接すればいいのか苦慮してしまいます。

いつも私を悩ませるのは、私自身が、お店の意図を汲み取れない方へ優しくできないことです。私には厳しい面があり、私の意図が汲み取れないことを断罪する性格が(わずかですが、本当にわずかですが、)あります。お店を利用していただいている限り私は、お店の意図を汲み取っていただける可能性に望みを抱いてしまいます。ですから、それがはっきりとしない時は難しい表情になることがあります(ごめんなさい)。

これはまるで、仲の良い友人らと会食しているときに微妙な関係の知人が登場して気を使って過ごす場面に似ています。今は花見の季節ですから、花見の場面で想像してみてください。呼んでもないのに偶然、微妙な位置付けの知人が通りがかり「参加させてくれ」というオーラを出すけれど、「何とか参加をさせまい」とやんわり断るのだが伝わらないもどかしさ、の時の「もどかしさ」です。これです。これ。こちらの意図を汲み取れない人物の登場は空気を変えます。

営業している全日を殆どの皆さんがお店の意図をご理解くださっていると考えています。ですが、ある時、ある日だけ、その日だけ、たまたま、ご利用の皆さんが偶然にも、ご利用内容が薄く展開する機会があったりします。そんな日は本当に、自分の力のなさを嘆き、自分の魅力の足らなさを恥じ、自分のしていることの無力さに悲しくなり、自分の努力や真面目さは関心が持たれないことと捨てた気分になり、つまらないリール動画を永遠と見続けるという虚無の世界に陥ってしまいます。

一緒に楽しく花見がしたい。そんな気分なだけです。一緒に楽しい時間を過ごしたい。「レストランは楽しい!」「イルピアットは愉快だ!!」「飲食店を利用して良かった!」「今日もいいグルーブだった!」そんな共感性を毎日、目指しています。毎日、期待しています。だから毎日、そうなるように努めています。きちんとすることで、それが実現すればいいのにと期待して働いています。

お店は売り上げがないとあっという間に立ち行かなくなります。スタッフへ支払う給与だけでなく、様々なことを実践するためには売り上げが必要です。お店の維持経費はご利用いただく皆さんに考えて頂かなくても構わないことです。そういう意識を持って頂かなくても良いようにと努力しています。「お店のために貢献してほしい」とお客さまに要求しているのではなく、「お店の意図を汲み取って頂けまいか」と淡く期待と可能性を寄せています。

花見の時に場の空気を読み取れず、仲間に加わりたいと座られた時のもどかしさ。「いやぁ、違うんだよなー」というもどかしさ。一緒に楽しむための設定が違うもどかしさ。イルピアットは誰もが利用できる良さがあります。高級店でも、ミシュラン星付きでも、話題のお店でもないお店です。有名人や芸能人やインフルエンサーが見向きもしない、お店のことが好きな人たちしかご利用にならない小さなお店です。このミニマルな環境に巻き起こるグルーヴはとても快感です。だからこそ、もどかしさを遠ざけたくなります。

過ぎたことを言いました。すみません。ですが、意図を汲み取ってご利用いただくには、ある一定の予算が必要であることをお伝えせねばなりません。安く、特別な扱いで、優しく、丁寧に接することを期待されるのであれば、同じ内容をお店もあなたに期待していると想像いただけると幸いです。一方的な要請が成立するのは、それなりの金額を支払うシステムを持つ空間とサービスです。金額に転嫁してのお支払いとは、そういうことです。

イルピアット円町、紙屋川ともにお店の改装がひと段落しました。お客さまに面白がられるお店を目指しています。ある方が「お金かけて直さなくてもお店ができるのに、どうしてわざわざお金をかけるの?」と尋ねられました。ごもっともです。私もそう思います。基本的な設備などは整っているのですから。ですが、しかし、お店の印象が刻々と変わることは可笑しみだと思うんです。そこに留まっているようで、実は違う。そんな無常感というか、ハラハラというか、落ち着かなさを可笑しみとして楽しんでいただければと思います。

一緒にグルーヴを作りましょう!!春爛漫。イルピアット円町、イルピアット紙屋川でお会いできる機会を楽しみにしています。皆さんのご来店をお待ちしていますー!!